子どもに対してARがどのような影響を与えるか
子どもへの影響を見るARを使った実験
ARは、実際に見える世界にバーチャルの映像などを重ねることによって、新しい感覚を体験できる技術です。
映像研修やゲーム、展示品の紹介など、日常生活でもビジネスでもたくさん使われるようになっています。
とても便利な技術ですし、今までにない刺激を味わえるというのが大きな魅力です。
その一方で、これまで私たち人類が経験してきてこなかったバーチャルの世界を体験することで、脳を始めとするさまざまな面に悪い影響が及ぶことがないかというのが心配される点となっています。
特に、感覚が敏感で成長過程にある子どもたちが、ARに触れることで大人以上に問題を抱えることがないかは真剣に考える必要があります。
そこで、日本女子大学の心理学科では、子どもへの影響を測るためのARを使った実験をしました。
5歳から10歳の子どもたちが対象となっていて、ある部屋に一人ずつ入ってもらいます。
そして、「ここには見えないお友だちがいる」ということを伝えて、タブレットでAR画面を見せます。
画面には部屋の映像にAR技術で男の子が表示されています。
部屋には2つの通路があって、片方だけにARの男の子が見られるように設定してあります。
タブレットを見てもらった後に、どちらかの通路を通ってプレゼントをもらいに行ってくださいとお願いします。
すると、実験に参加した48人のうち、34人の子どもがARで男の子が出てこない通路を選んで通っていきました。
おそらく、ARで見た男の子が通路をふさいでいて邪魔になると思ったので、誰もいない側を選んだのだと考えられます。
子どもと大人の比較をするために、まったく同じ実験を大学生を対象に行っています。
すると、24人のうち14人だけがARの男の子がいなかった通路を選んでいます。
こうしてみると、大人と子どもの間には違いが生じていて、ARからの影響の現れ方に差があることが分かります。
大人よりも子どもにより強い影響を与えるかもしれない
このように、ARを見ることで受ける影響は大人よりも子どもの方が強いかもしれないと結論付けられます。
大人は、ARを見てもそれがあくまでもバーチャルの情報であると分かった上で考えますが、子どもの場合はそのままリアルな存在として受け止めてしまう可能性があるわけです。
また、子どもはもともとイマジナリーコンパニオンと言って、想像上のお友だちや世界を作って、その空想の中で遊ぶ傾向があります。
いわば、自分の脳の中でARを作り出して遊んでいるわけです。
それが実際にタブレットなどで映像として見ることで、よりリアルなものとして受け止めてしまうことにつながることもありえます。
こうした影響について真剣に考え、子ども向けのARコンテンツの開発や、親の使い方の制限などに生かしたいものです。